どうしても気にいった服のとりあわせが見つからないとき、なぜか黒一色へ逃げてしまいます。
いつも黒のコーデにたよっていました。
大学へはいったころから、なんとなくスカートをはかなくなって、かわりにジーンズやパンタロンやガウチョのようなものをはくようになりましたので、全身が黒一色ということはありませんでしたけれど、それでも上は黒っぽいタートルやシャツなどが多かったようにおもいます。
黒色にもさまざまあって、黒いベルベットのように〈ぬくみ〉で魅せるもの、黒いオニキスのように〈かたさ〉でさそいかけるもの、闇夜のように〈ふかみ〉でまどわすもの、黒馬のように〈つよさ〉で心をうばうものなど、かぞえきれるものではありません。
黒のうつくしさには「目に見えているものとはちがうなにかが隠れているはず」とおもわせる魔力がまといついているような気がします。
黒の裏にはもしかしたら白がかくれているのでは、と疑ったことはないのに、白の裏にはどうしても黒がひそんでいるような気がしてたまらないのも、黒色にひめられている謎めいた魔力のせいなのでしょう。
そんな黒をつかったコーディネーションはとても自由です。
ほんとうに、おどろくほど自由なのですから、白はもちろんのことですけれど、オリーブ色や柿色(かきいろ)や山葵色(わさびいろ)などカーキ色の姉妹たちに手をのばしても、あまりに安心で安全で、それほどおもしろくはありません。
黒とグレーのあわせ方もとてもありきたり(conventional)でたいくつです。
夜をひかえた茜空(あかねぞら)や、雨の予感におもくなったブルーグレーの曇空は、わたしたちの目が親しんできた色です。
しくじらないとりあわせになるのはとうぜんかもしれません。
でしたら、いっそのこと、ピンクやアクアブルーやレモンイエロー、もしくはネオンカラーの姉妹たちと合わせてみるのも、おもしろいかもしれません。
スカーフやベルトやお靴や帽子などにだけ、ちょっぴりあでやかな色をそえるような、フランス的なワンポイントのエレガンスをめざすのではなくて、はじらいを投げすてるくらいに大胆(だいたん)に、もう地中海の国々のひとつが故郷になったようなつもりで、黒いトップスに黒いパンツをお召しになって、そこにピンクのジャケットをはおるのも、パーティやお車でのデートなどには向いているのではないでしょうか。
いまは服のとりあわせひとつにしても、手のひらの上の小さなコンピュータもどきのスマートフォンで、たくさんお勉強することができます。
けれども、いちばんたいせつなのは、あなたの遊び心と冒険心だとおもいます。
つまり、ご自分がいちばん身につけたいとおもったら、ただ、それをお召しになればいいのです。
きっと、それを楽しんでいるあなたが、お顔にもふるまいにもあらわれて、ほかの方の目にも、とても似合っているように見えるはずです。
いまはああいうとりあわせが流行していて、ああいうものを着たいのだけれども、わたしの顔つきや体つきに合うかしら、ほかの人の目にはどんなふうに見えるのかな、などと、すこしでも気になさるようでしたら、それはおやめになったほうがよいかもしれません。
ムリがお顔にもふるまいにも出てしまうでしょうから。
なにがなんでも着てみたい、ほどのものではないけれど、ちょっと身につけてみるとおもしろいかな、という遊び心と、どんなとりあわせをするとムリが出てしまうのか知りたい、という冒険心とのかけひきが、服をえらぶときの楽しみのひとつだとおもいます。
夏に黒のコーデは暑いでしょうけれど、漆黒の水着に大きめの麦わら帽という手もあります。
のこりの季節になると、もう、いつでも、どこでも、黒のコーデの出番です。
うんと楽しんでみてはいかがでしょうか。
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