米国大手メディアをパニックにおちいらせた対談
2024年2月8日、ロシアウクライナ戦争がつづいているさなか、米国の政治コメンテータでTVニュース番組の司会者でもあるタッカー・カールソン氏とロシアのウラジミール・プーチン大統領との対談が、カールソン氏のウェブサイトおよびソーシャルメディアのひとつ「X」で公開されました。
この対談は、2024年2月20日現在、3億回という再生回数を得て、米国だけではなく、その他の国のひとびとにも予想外の反響をもたらし、マスメディア(報道機関)にもさまざまな影響をあたえました。
ところで、子供のころに読まされた教科書に書かれてあったように、米国の共和党(The Republican Party)の政策理念は「他国への干渉はしない」という立場を守ることでした。
つまりアメリカ孤立主義です。
そういう本来のアメリカへ回帰すべきだという信念をお持ちなのがタッカー・カールソン氏です。
彼はコネチカット州ハートフォードのトリニティ・カレッジ卒で、J・ウィリアム・フルブライト上院議員の姪にあたる継母をもつという「お坊ちゃま」くんです。
アメリカでもっとも高い視聴率を獲得することのできる政治コメンテータでもあります。
このタッカー・カールソン氏については、2023年5月29日に公開した『【資本主義とAI(人工知能)の問題】イーロン・マスクの警告』という記事のなかでも紹介したことがありますので、興味をお持ちの方は、ぜひ、お読みください。
はじめに書きましたが、そんな彼が、今年2024年2月6日にプーチン大統領と対談し、そのもようを2月8日に公開したのです。
とたんに、アメリカの大手メディアだけではなく、アメリカの地政学的覇権(はけん)の傘下にある西側諸国(同盟国)の大手メディアのほとんどが、文字通りパニックにおちいってしまいました。
「ゆるせない行為だ」とか「国家反逆罪(treason)だ」とか「彼はロシアのスパイだ」なんて声高に叫ぶ方たちまでもがいて、とても興味深いメディア風景がひろがっています。
「興味深い」と書きましたのは、大手メディアは、いままでに、ウクライナのゼレンスキー大統領とはなんども対談をおこなっていますし、うんと前にはウサーマ・ビン・ラーディンとの対談すら公開しているからです。
民主党(The Democratic Party)の宣伝機関と呼ばれ、コロナ禍以来、最低の視聴率を誇るMSNBCは、さっそくタッカー・カールソン氏とプーチン大統領の対談を嘲笑する内容の番組を流しました。
ふたりの対談の内容についてのこまかな検証はどこにもありません。
話された内容よりも、タッカー・カールソンという人物のしぐさや特徴に的をしぼり、彼の評判そのものをお笑いでつぶそうとする意図が見てとれます。
米国大手メディアが得意とするいつもの誹謗中傷(キャラクタ暗殺)テクニックなのですけれど、あまりにもそれがムキ出しになっていて、彼らの意図するところとは逆の笑いがこぼれてしまいました。
真実を伝えることが「犯罪行為」になる時代?
キャラクタ暗殺(character assassination)とは、たとえば、イラク戦争にたいして批判的な上院議員にたいして、彼の戦争に反対する理由と意見を報道するのではなく「いやいやおどろきました。自分の娘と同じ歳くらいの女性秘書には目がないといわれる彼が、とつぜん戦争反対をとなえるなんて。さては奥さんに浮気がバレて、いま、家庭内で戦争が勃発しちゃってるってことなんでしょうか? 反戦というプロパガンダで崩壊寸前の家庭生活と政治生命のふたつを同時に救えるとでも思っているのでしょうか?」といったやり方です。
もちろん、ここまで程度は低くないのですけれど、ふたりの対談の流れと前後関係を無視して、つまり文脈を無視したり、ある特定の部分をつまみとっては、じっさいの対談の内容とはまるでちがう意味に変えて解釈し批判するという常套手段をとっています。
それが米国の大手メディアのすべての局に共通の大合唱になることがあって、とても興味深い出来事に発展していくことがあります。
つまり、すべての主要テレビネットワークのニュースキャスターたちが口をそろえておなじことばを(一字一句のちがいもなしに)くりかえすことがあり、YouTubeなどで、その例ばかりを集めてつくられたコンピレーション動画をごらんになることもできます。
じっさいに、その手の編集版を見ていると、暗黒的な未来(ディストピア)を描いたSF映画に出会ったときのように、ゾッとする瞬間もあるので、怖いもの見たさで、ますます見るのをやめられなくなったりもします。
ニュースキャスターの方たちは、彼らの正面や左右におかれたモニタ画面(プロンプター)を流れてゆく原稿を読んでいるだけなのですけれど、もしかしたらそのスピーチ原稿(script)そのものを作成しているのが、米国の大手テレビ局のほとんどすべてを傘下においているテレビ放送局運営会社シンクレア・ブロードキャスト・グループであり、彼らが大手メディアを通して「世論」の舵取り(manufacturing consent)をしているのではないかという問題が(とくにオバマ政権のあたりから)取りあげられてきました。
それと同じような大手メディアの側からの批判的大合唱が、いま、タッカー・カールソン氏とプーチン大統領に向けられていて、じっさいに、むりやり世論の舵取りをしているとしかおもえないメディア風景(mediascape)が、手に取るようにつたわってきます。
しかも、彼らのあわてぶりがちょっと尋常(じんじょう)ではない、というか、フツーではないのです。
そのせいで、ほんとうは自分たちに知られたくなかったことがあるのではないかという疑いを米国民のあいだに芽生えさせ、もしかしたらすべてはプロパガンダだったのではないか、という不信感をさらにひろめることにもつながってしまったのかもしれません。
とは言っても、たぶん、一般的な米国民にとっては、ふたりの対談を最初から最後まで見る時間はないでしょうし、そんなシリアスな番組を2時間にわたって見るような忍耐力を持ちあわせている方たちも少なかったはずです。
それに、ふだんは、大手メディアのニュース番組とお笑い番組とスポーツ番組と連続テレビドラマしか見る機会のない方たちにとって、プーチン大統領の人物像は、それまで大手メディアが流しつづけてきた「ロシアという国を鉄の爪で手中におさめている恐るべき独裁者」というイメージからそれほど遠く離れたものではなかったでしょう。
でも、今回の対談相手はタッカー・カールソン氏です。
お茶の間になくてはならない解説者ですし、政治コメンテータのひとりです。
しかも、元は大手メディアのひとつFOXニュースにおられた方で、そこにおいても最高の視聴率を獲得していた人気司会者でもあります。
米国民にとっては、とても馴染みのある顔、とでも言えばいいのでしょうか。
おもしろいのは、過去にはずっと保守派(共和党側)の意見の代弁者のようにおもわれていた彼のFOXニュース番組を、近年は民主党に票を入れるようなひとびとまでもが見ていたという事実です。
3億回に近い視聴数が物語っているのは、かなり多くのひとびとがその対談を待ちのぞんでいたのだという証明かもしれません。
そんな米国民が、今回の対談によって、「あれ? いままで聞かされてきたプーチン大統領のイメージとちがうんだけど」とか「あれ? いままで聞かされてきたロシア・ウクライナ戦争の状況とちがうんだけど」という疑問を感じ、「もしかしたら、いままでの報道ってウソだったの?」とか「またまた彼らにダマされたのかも」という疑念をいだいて、ますます「大手メディア離れ」がすすむのではないかと、米国民主党政府は懸念しているようです。
と、ここまで書いてきて、ちょっと小首をかしげてしまいました。
映画『追憶』(1973年)や『大統領の陰謀』(1976年)、そして『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2018年)などで描かれているように、もともとタカ派の役回りをするのは共和党であって、民主党はハト派の役目を演じるということが、その両党にバランス良く多額の政治献金をばらまいて、米国の議会を買い取っているドナー(寄付者)たちの台本(ナラティヴ:narrative)だったはずなのです。
それが、クリントン大統領以降、オバマ大統領につづいてバイデン大統領までもが、かつてないほど戦争拡大の音頭をとってきたのですけれど、その全員が民主党から選出された大統領だったという皮肉に、ふと小首をかしげてしまったわたしでした。
でも、過去にも、振り子が大きくゆれて、それぞれの立ち位置が入れ代わったことがあったらしいので、ふたたびそういう時期にさしかかったのかな、なんて、東洋の島国の小さな一室から、過去に長く暮らしたことのある、なつかしい国をながめています。
ジャーナリストの使命とは?
ジャーナリストにとって、ときには他国の大統領と対談をするのはあたりまえのことだとおもいます。
たとえそれが敵国とみなされた国の大統領や党首や統治者であっても。
いえ、敵国の大統領だからこそ、なぜ、敵国とみなされるようになったのか、どのような経緯でそうなったのか、また、どのような政策をかかげているのか、いったいどんな人物なのか、などなど、ウクライナへの支援金という名目で多大な額の税金を吸いあげられている米国の国民にとっては、知りたいことがたくさんあるでしょうし、知る権利があるとおもいます。
この戦争のせいで国の財政が疲弊(ひへい)し、高額な光熱費で苦しんでいるドイツなどEU(欧州連合)加盟国の国民にとっても、また、ウクライナへの支援をおこなっているわたしたちにとっても、知らなければいけないことはあるはずです。
なぜなら、ジャーナリズムの本来の目的は「民主主義をうたっている国々において、その国民のひとりびとりが正しい判断を下して責任のある行動をとるための手助けとなる真実の情報を提供するための役割をになうもの」であるからです。
そして、マスメディア(報道機関)とは、あくまでも「国民に仕えるものであり、統治者に仕えるものではない」からです。
半世紀にもわたる長いあいだ米国の人気司会者でありつづけたバーバラ・ウォルターズだけではなく、映画『プラトーン』や『ウォール街』や『JFK』などの監督として知られるオリバー・ストーンだってプーチン大統領と対談しました。
なんら不思議なことでもなく異状なことでもありません。
にもかかわらず、今回にかぎって、きちんとした具体的証拠をあげることもなく「プーチンの言ってることはプロパガンダにしかすぎない」とか「まったくのナンセンスだ。全てが嘘にまみれている」とか「タッカー・カールソンはプーチン大統領に利用されているだけだ」とか「ロシアのプロパガンダに騙されているにしかすぎない」とか「プーチンに都合のよい質問ばかりだ」といった、子供じみた単純な全否定ばかりで、客観的で具体的な証拠(エヴィデンス:evidence)をあげておこなう反証にすらなっていないような意見が多く見受けられたことのほうが異常なのです。
戦争はプロパガンダなしには始まらない
「戦争の最初の犠牲者は真実です」
このアイスキュロスのことばは『戦争メモ 其の1』にも書きました。
戦争をはじめるときに統治者がおこなうことは、たいてい、そこにいたるまでの歴史を変えてしまうか無視することのようです。
そして、捏造(ねつぞう)された事件や出来事によって、戦争はとつぜん始められます。
たとえば、1914年にオーストリア皇太子夫妻が暗殺されるという事件をきっかけに第一次世界大戦が始まりました。
また、日本という東洋の島国がなんの布告もなく米国の真珠湾を攻撃したせいで太平洋戦争がはじまった、ということになっています。そこにいたるまで、米国による経済制裁のせいで、日本国民が苦しい生活を強いられ、石油をもとめて東南アジアへ軍を進めていった(もちろん財閥による利益の追求という目的もありましたけれど)、という経緯などは無視されてしまいます。そのことを米国民は知るよしもありません。
1980年代のカリフォルニアの高校で使われていた歴史の教科書を見せてもらったことがありますが、そのなかでも日本は悪者でした。
いきなり喧嘩を売ってきた犯罪国家というレッテルを貼られて終わりです。
独裁者「天皇」が支配するナチス・ドイツのような政府によって国民は弾圧され、若者は自爆テロと変わらない「カミカゼ」パイロットにさせられて死んでいった、としめくくられていました。
けれども、戦後はアメリカの「民主主義」と「自由」と「平等」政策のおかげで、ドイツとおなじく、信じられないくらいの速度で経済復興をなしとげることができた、と。
1990年の湾岸戦争の引き金になったのは、イラクが隣国クウェートに侵攻したという事件だと言われているようですけれど、じっさいには「ナイラ」と名乗る少女がおこなった証言による米国民の感情のゆれが大きかったとおもいます。
いまでは彼女の証言がすべて作り物で、プロフェッショナルによる演技指導をうけたこともふくめて、アメリカ政府によるプロパガンダ、つまり昨今話題になっている「フェイクニュース」(虚偽報道)だったということが判明してはいますけれど、あの戦争によって犠牲になった4,000人近い一般市民と26,000人におよぶ軍人たちは二度ともどってはきません。
同じように、2003年からはじまったイラク戦争のきっかけになったのは、亡命イラク人が発言したフセイン大統領は大量破壊兵器(weapons of mass destruction)を手にしているという情報でした。
いまでは、そのイラク側の陰謀も、アメリカ政府の「でっちあげ」、つまりプロパガンダによるフェイクニュース(虚偽報道)だったことが判明していますけれど、イラク戦争で殺された20万人近い民間人はもどってきませんし、そのひとりひとりとつながりのあった家族や親族や友人や恋人たちの心の傷をいやすことはできません。
けっきょく政府がいちばんタチの悪い陰謀論を流しつづけてきた張本人なのかも
じっさい、ここ4、5年のアメリカの世論を見てみますと、国民の半数に近いひとびとが政府を信頼しておらず、政府と大手新聞やマスコミのほうが、ソーシャルメディアなどで「すべてはイルミナァーティの策略」だの「支配者たちはじつは異星人」だのと言っているひとたちよりも、はるかにタチの悪い「陰謀論」を流布させてきた元凶だと考えていることがわかります。
それによって、じっさいに数多くの命が奪われ、歴史のある国々の有形文化財が破壊され、なんの罪もない新しい世代の未来が失われてきたのですから。
わたしたちは騙されてきたんだ、政府はずっと嘘ばかりついてきたのだ、というぐあいに。
そして、このような政府にたいする不信感と苛立ちは、大手メディア離れを加速させながら、アメリカだけではなくてヨーロッパやカナダにまでひろがっているようすです。
たとえば、コロナ騒動下におけるカナダのトラック運転手たちによる大規模ストライキは有名ですし、オランダ、ドイツ、フランス、アイルランドなどで現在進行中の農場経営者(farmer)たちによるデモやストライキもかなり大規模になっています。
このような状況があるからこそ、各国の政府は、ソーシャルメディアを取りしまり、ソーシャルメディアが流す情報の「ミス misinformation」(意図的ではないまちがい)や「デマ disinformation」(悪意をともなう捏造)を見張る機関を設けて、ソーシャルメディアそのものを政府の管理下におかなければいけない、と声高に主張しはじめているのでしょう。
大昔からある情報統制と呼ばれるものです。
けれども、どのような政府機関や新たな組織が、いかなる基準によって「この情報はまちがい、この情報は良し」と判断し、それぞれの情報にたいする罰則を科すのかはあいまいです。
また、そうなると、先進国のほとんどすべての国々が憲法でうたっている「表現の自由」もしくは「発言の自由」という、国民にとって最も大切な権利とぶつかることになり、とてもむつかしい問題が生じてくるはずです。
とくにジャーナリストや学者や作家にとっては、かなり深刻な問題をつきつけられることにもなるでしょう。
いえ、YouTuber や ポッドキャスターや TikToker(ティックトッカー) の方たちも同様です。
そもそも大手メディアで情報を発信している方たち自身が、いままで以上に自主規制を強めなければいけなくなって、まるでオーウェルの『1984年』をそのまま現実に移しかえたような、まさに「オーウェル的暗黒の未来」(オーウェリアン・ディストピア)が出現するのではないかという恐怖をすら感じさせられます。
そのシナリオに不安を抱くひとびとを意識しているのか、米国および欧州各国の政府と大手メディアは「みなさんの考え方までをもコントロールするつもりはありません。ただ、いままで通り、情報はなるべく古くからつづいている信頼できるメディアから得るようにしましょう」と呼びかけています。
もとはといえば大手メディアが信頼できなくなったためにこのような状況が生まれているのにもかかわらず。
近ごろでは自分たち大手メディア自身を『レガシーメディア Legacy Media 』(過去からの伝統をひきついでいるメデイア)と呼んでいるようで、ちょっぴり痛みのある悲しい苦笑がもれてしまいます。
まるで「どうか『従来のメディア』を信用してください」と哀願しているようで。
2024年2月にはいって、ニューヨークタイムズやワシントンポストなどで大規模なリストラがはじまったという事実そのものが、長年のあいだひとびとにそっぽを向かれてきた結果なのかもしれません。
マスメディア(報道機関)は、あくまでも「国民に仕えるものであり、統治者に仕えるものではない」という信念を、歴史のどこかでポケットから落としてしまったのかもしれませんね。
もしかしたら、株式を上場して、機関投資家や株主や銀行家の意見、とくに新聞社そのものを所有している億万長者のオーナーの意見に耳をかたむけ、あるときは従わなければいけなくなったころから、ポケットに穴があきはじめていたのかもしれません。
戦争は、なぜか、いつも、とつぜん始まる
2年前の2022年2月24日、大国ロシアはいきなり小国ウクライナに軍事侵攻し、腕力にものを言わせて他国を侵犯する悪の国、というレッテルを貼られました。
また、サウジアラビアの富豪のお坊ちゃまくんだったウサマ・ビン・ラーディン率いるアルカイーダという国際テロ組織(ISISとおなじく、設立された当初には、米国の資金援助とCIAによる軍事訓練をうけていました)は、ある晴れた日に、突如としてニューヨーク市のツイン・タワー(ビルディング7は謎の自壊)を旅客機によって崩壊させたことになりました。
そして、パレスチナの民族組織ハマスが、野外コンサートを楽しんでいたイスラエルのひとびとをとつぜん襲撃して殺害したことから、もっとも凶悪なテロ行為とみなされ、現在のイスラエル・ハマス戦争がはじまりました。
とは言っても、戦争というのは「国家間での争い」のことですから、もともと米国がアルカイーダという組織に宣戦布告をしたり、イスラエルという国家とハマスという民族組織が戦争をする、という言い方そのものがおかしいのですけれど、コロナ騒動以来ウェブスター辞書のなかの「ワクチン」の定義をすら変えさせることのできる方たちがおられるようなので、あまりうるさいことは言わないでおきます。
ことばの定義を変えることは、わたしたちのモノの見方を変えることです。
それがだれにとって都合の良いことなのかを調べる役目もジャーナリストの方たちは負っているのかもしれません。
戦争をはじめるためには他国を挑発するのがいちばん
去年の春あたりから、わたしが学んできたところでは、もともとウクライナ・ロシア戦争は2014年アメリカが画策した政権交代から端を発しているようにみうけられます。
米国がいままでに幾度となくおこなってきたのは、まさに「外国(たとえばアメリカ)による力づくの政権交代」(Foreign Imposed Rigime Change)というものでした。
たとえば、2014年の、ロシアによるウクライナ領クリミアへの軍事侵攻のきっかけとなったユーロ・マイダン革命(クーデターとみられる)の背後でアメリカが関与していたことをオバマ大統領自身が明らかにしています。
つまりアメリカ孤立主義とは真逆の政策をおしすすめることで、20世紀半ばから21世紀の現在にかけて、米国は世界における覇権をにぎってきたのだと考えられます。
今回も、自国とNATO同盟国諸国へ利益をもたらすための新政権を、米国がクーデターによって樹立させたことが原因のひとつになっているようです。
そのことは、当時(2014年)アメリカの国務次官だったヴィクトリア・ニューランド(Victoria Nuland)とウクライナの米国大使との電話による会話でもあきらかです。
また、その会話のなかで彼女(つまり米国政府側)が「欧州連合なんてどうでもいいのよ!」(Fuck the EU)と考えていたことも明らかです。
たとえ、エネルギー不足のせいで、欧州で暮らしている一般市民が苦しむことになったとしても、そんなことにはかまっておれない、という政策が、すでに2014年の時点で敷かれていたのではないかという疑いを抱かされる会話でした。
また、アメリカが画策したクーデターによって樹立されたウクライナの新政権をささえるために創設された軍事組織 Azov Battalion(アゾフ・バタリオン)がナチズムを掲げていることも事実です。
そして、2014年、ウクライナのドネツク州ドンバス地域とルガンスク州で暮らすロシア系のひとびとが「親露派の大統領をクーデターによって追い払い、このたび新しく誕生したEU(欧州連合)寄りの政府の政策には従えない」ということで結成したドネツク市民軍とルガンスク市民軍を「テロリスト」あつかいして、ウクライナの国民でもある彼らを虐殺していたのがこのアゾフ連隊でした。
そのため、ロシア政府が「それ以上ウクライナのロシア系市民を殺さないでほしい」と呼びかけたことでミンスク議定書が取り交わされました。
2014年のミンスク合意と呼ばれるものです。
その背後で糸を引いていたアメリカおよびNATOは、この合意のおかげで、逆にウクライナへの武器供与と資金援助をするための時間稼ぎが可能になったと考えたらしく、ウクライナを西側諸国にとりこみ、ロシアを孤立させるための計画を練りつつ、このあとも8年間にわたってウクライナ軍のドンバス地域とルガンスクで暮らすロシア系市民の虐殺はひそかにつづけられました。
そのせいで数多くのロシア系ウクライナ人が殺されつづけていることをロシア側は裏切りだとおもっていたようです。
わたしたちが暮らしているのは島国ですから、ちょっと想像するのがむつかしいのですけれど、日本をウクライナにたとえた場合、九州人と四国人はロシアのことばを話すだけではなくロシアに併合されたがっている親露派ばかりだし、おまけに本州の政策には従えない、なんて言って九州市民軍と四国市民軍をつくったので、「おまえたちはテロリスト集団でしかない」と本州政府が批判し、自衛隊の武力を使って、九州や四国に爆弾をおとしたり、地上戦で同じ日本人である九州人や四国人を殺害する、というようなことが起こったと考えてもらえればいいのかもしれません。
その後もロシアは、「NATOの加盟国追加による拡大政策はいいかげんにしてもらいたい」という趣旨で「ウクライナはあくまでも独立国家として西側諸国とロシアとの緩衝地帯であって欲しい」という意志を公に発表していて、それさえ守ってもらえれば停戦に応じるという旨を西側に伝えていますし、その証拠も残っていますが、そのたびに西側諸国(とくにアメリカ)からは拒絶され、合意にいたることはありませんでした。
ロシアの言い分はこうです。
「もしも、アメリカと地続きで国境を共有しているメキシコが、われわれロシアと手を結んだとしたら、あなたがたはどう感じるだろうか。そして、それにたいしてどう対処するだろうか。しかもテキサスの目と鼻の先にあるメキシコにずらりとロシアのミサイル発射台がならび、それがすべてアメリカに向けられていたとしたら、あなたたちはどうおもうだろうか。ウクライナは、ロシアのものではなく、また、NATOのものでもない、そういう独立国家として存続してほしい。そのことに合意してくれれば、われわれはウクライナを認め、いつでも停戦に応じる用意はできている」
これがロシアの立場だったことは確かなようです。
そして、それほどまでに親露派のウクライナ人を殺害するのならば、ドンバスとルバンスクはロシアに併合したいと考えている、と伝えていたことも事実のようです。
どうしてウクライナに米国のバイオ研究所があるの?
ウクライナ国内で、例のミンスク合意が成立した2014年以降、アメリカのバイオ研究所がいくつか創設されていたことが明らかになっています。
さきほど登場した当時の国務次官ヴィクトリア・ニューランドが、公聴会において、つぎのような事実を述べたことがきっかけでした。
「もしもロシア軍がウクライナに侵攻してきた場合、ロシア軍によってウクライナにあるアメリカの生物研究所が発見されて、わたしたちの研究結果および研究成果物がロシア側の手にわたることが懸念されます」
この彼女のことばで、ウクライナには、アメリカとの共同による生物研究所(バイオ研究所)が存在していることがわかりました。
そして「さきほどのニューランド国務次官の話によると、研究結果がロシアの手に落ちたら危険な状況が生まれる、と言うことです。ということは、危険な薬物などを開発していたという誤解を招きやすくなります。それについてはどうお考えですか?」という上院議員からの質問に、こんどは中央情報局長(CIAディレクタ)のビル・バーンズ氏が次のようにこたえています。
「しかし、研究の成果とは言っても、それはあくまでも新しい感染症がひろがったときにひとびとを救うための研究であって、けっして生物兵器を作るための研究所ではありません。彼女の話は誤解されやすい危険性をはらんでいますが、ひとびとのための研究所と、生物兵器を作るための研究所とはまるでちがうものなのです」
だったら、ロシア軍の手におちることを、そこまで危惧(きぐ)することはいらないのでは? と上院議員につっこんだ質問をしてほしかったのですけれど、でも、ヴィクトリア・ニューランドでしたら、きっと「相手はロシアです。彼らがそれをどのように扱うかはわかりません」というふうに切り返したかもしれません。
でも、わざわざアメリカから1万キロも離れたウクライナにバイオ研究所を作らなくてもいいのでは?
この質問にはどんなふうに答えたでしょうか。
たぶんケロリとした顔で「アメリカ国民の健康に害がおよぶのを避けるためです」と答えたのではないかとおもいます。
どちらにしても、「公聴会」というのは、質問する側の上院議員の選挙運動のための宣伝(CM)みたいなもので、国民の側に立って、いっけん厳しい態度で大企業や政府機関の不祥事の原因を追求しているように見えても、事前に両者のあいだの意見交換と合意がなりたっている政治劇みたいなものだからね、とカリフォルニア大学バークレー校の教授が政治学(ポリティカル・サイエンス)の授業で話しておられたことをおもいださせるものでした。
米国の政治家たちはワシントンDCで空想に浸っているせいで現実が見えていない?
そもそも、アメリカ政府がEUの政策に反対していたのは、ロシアがヨーロッパへの安い天然ガスの供給国として主要な役割を果たすことになるだろうという事実だったようで、そのことを石油と天然ガスをあつかっているアメリカの大企業は苦々しくおもっていたらしいのです。
つまりEU加盟国がアメリカが供給する天然ガスや石油にたよらず、安いロシアのエネルギー資源にたよるようになるのは、アメリカにとって経済的な損失になるだけではなく、アメリカの覇権(hegemony)を弱めることにもなる、という懸念が、ロシアを挑発して戦争に踏み切るしかないところへ追いこもうとする政策につながったのだ、とおっしゃる国際政治学者や地政学者さんたちがいます。
そのために、2015年からはじまったカナダ軍のウクライナでの訓練をサポートしつつ、女装コメディアンとしてウクライナのひとびとを笑わせてきたTVキャラクタで俳優のゼレンスキー氏を大統領におき(2019年以降)、アメリカの傀儡政権(かいらいせいけん)として自由自在に操りながら、さまざまな方法でロシアの神経を逆撫でしてきたのだ、と。
とにかく、いったんロシアが軍事侵攻して戦争をはじめれば、世界の世論をたばねてロシアを批判し、西側諸国が一体となってアメリカ側につき、ロシアへの経済制裁を強めて、経済を崩壊させ、生活苦にあえぎはじめたロシア国民の「世論」がプーチン政権打倒へとかたむき、アメリカの利益に沿う政策を展開する大統領と政府をおくことができるだろう、という「非現実的な甘い考え」(wishful thinking)があったためだと考えられているようです。
つまり、アメリカ合衆国の下院議員トゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)がたびたび明らかにしているように、過去に、イランやイラクやエジプトやシリアなど、その他の「小国」にたいして米国がおこなってきた「首のすげかえ」(リジーム・チェンジ regime change)は、それぞれの国の国民が民主主義的な選挙でえらんだ統治者を、学生デモをおこしたり、軍によるクーデターを扇動したり、もしくは米国の息のかかったメディアを使って、世界中に「あの国では女性が奴隷のようにあつかわれている」とか「あの国の大統領は独裁者でヒットラーとかわらない」とか「あの国の政治家たちはメディアを検閲し、民主主義的な言論を抑圧している」というようなプロパガンダを流すことで引きずりおろしたり失脚させたりしてきたらしいのです。
そして、それでも米国の意向に従わなければ、まだ相手国から何もされていないのに、あの国はテロリスト組織をかくまっている国であり、米国にたいしてテロ行為をしかけてくる可能性があるから、という理由で先制攻撃(preemptive strike)をおこなってきたということらしいのです。
それもすべては米国の利益、つまり、政治家たちを背後であやつっている献金者(グローバル・コーポレーションや軍事企業ボーイングやロッキード・マーティンやグラマンなどの株主たち、および機関投資家やメディア王と呼ばれる人たち)のために。
そのようにトゥルシー・ギャバード下院議員は説明しています。彼女はアメリカ陸軍予備役士官で、イラク戦争において従軍経験のある女性でもあります。
けれどもロシアはイラクではありません、シリアでもありません。大国です、とダグラス・マグレガー大佐(Colonel Douglas Abbott Macgregor)をはじめとして、元ペンタゴンの軍事評論家だった方たちまでもが警告を発しています。
彼らの警告を無視して、ウクライナへの軍事侵攻をけしかけることで、ロシア経済を疲弊(ひへい)させるという政策は、皮肉なことに、まったく正反対の結果を生み出しました。
ロシアの貨幣ルーブルの価値は、ロシア・ウクライナ戦争がはじまる前にくらべてはるかに強くなっていますし、経済は好況(ただし軍需産業に助けられて)らしく、また、プーチン大統領の支持率は2023年12月の時点で80%を越えるものとなり、過去最高となっています。
そして国民の意識は、スウェーデンやフィンランドやポーランドなどに気軽に旅行していたころにくらべると、反欧州連合へとかたむいているようすです。
ロシアの国民にとって、欧州諸国のひとびととの交流は自然なことだったらしいのですが、この戦争のなりゆきを見守るうちに、彼らEU諸国は、けっきょくのところ西側の同盟国で、しかもアメリカの言いなりであり、なにかが起こったら、みんなでいっしょに手をむすび、ロシアに経済制裁をくわえたり、ロシアを「悪の独裁国家」みたいにあつかう国々だ、という不信感がひろまり、逆に戦争がはじまる前よりもいっそうロシア国民の精神的団結を強めることになった、とみられています。
米国政府の思惑通りには事がはこばない時代?
地政学や国際政治学を教えている学者さんたちはつぎのような意見を述べています。
「われわれアメリカの政治家たちは、ワシントンDCにつどって、同じ考えの人間たちといっしょに、同じ顔ぶれの専門家から聞かされる似たようなアドバイスに耳をかたむけ、みんないっしょに同じ空想にふけっているとしかおもえない。たとえそれが夢であったとしても、全員が同じ夢を見ていれば、それは現実と変わらないからである。米国民の現実も知らなければ、変化している世界の現実にも目を向けようとしない。自分たちと関係者たちへの利益を増やすことしか頭にないからだ。いまだに世界がアメリカ帝国の武力とオイルダラーの支配下にあると信じている。けれどもすでに米国による支配(unipolar)は弱まりつつあり、かわりにBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国・アラブ首長国連邦)や日本など、さまざまな国々による影響(multipolar)を受けつつ世界情勢は変化しているのである」
アメリカの政治家やペンタゴンのトップのなかには、「わが国の政治家はロシアがいまだにアフガン戦争後の1990年代初頭の戦力しかないものと誤解している」という意見を述べる方たちもいます。
最終的にアメリカ軍を送りこめばロシアなどはどうにでもなる、とでもおもっているのではないか、と。
しかし、アメリカの自動車産業はデトロイトから他国へ工場を移しているため、非常時に弾丸や戦車などの増産が間に合わない状態にあることを忘れている、という批判も多いようです。
とくにつぎのような意見を多く耳にします。
「しかも遠い異国の地に軍を派遣して勝利することは不可能に近い。なにしろ金がかかりすぎるし、兵士たちの士気を保つことがむつかしく、歴史をふりかえってみればわかるように、勝利した国などほとんど皆無だ。それが証拠に、ベトナム戦争においても、サイゴン陥落のあと、ヘリコプターに飛び乗って尻尾を巻いて逃げ帰ったのはアメリカ軍のほうだし、20年にもおよぶアフガニスタン戦争も、けっきょくは、そっくりそのままベトナム戦争の最後の瞬間のリメイクでしかなかった。アメリカの輸送機に駆け寄り、しがみついて、亡命を希望するひとびとを振り落とすように離陸するあの映像は、ベトナム戦争における敗北の瞬間を思い出させるものでしかなかった」
そういうことをふまえて、いまの世界で米国はすでに「重要な国」ではなくなっているのではないか、と問いかける評論家の方もいます。
アメリカの「今」と戦争の「今」を解き明かす
アメリカは、太平洋戦争を最後に、ひたすら弱小国や特定のテロリストグループ相手に戦闘をおこなってきただけなのです、とおっしゃる軍事評論家の方たちがいます。
相手が自分たちと同レベルの武器と戦力をもつ大国と戦ったことなどないのです。
つまり、地上からわれわれの爆撃機を撃ち落とされたり、数時間で何百というミサイルを撃ちこまれたり、1500機にもおよぶドローンとの戦闘を経験したこともなければ、そういう経験のもとに兵士を育てることのできる将軍たちもいないのです。と。
にもかかわらず、ベトナム戦争では敗北を味わいました。
くわえて、イラク戦争や20年におよぶ無意味なアフガニスタン戦争によって、兵士たちの目的意識は薄らぎ、モラルは乱れ、母国への忠誠心がゆらいでいることが、他国と戦争をするのには不利な状況を生み出しているのでは、とも言われています。
士気の下がった軍をもつ国に勝利はおとずれない、と批判する元大統領の戦略アドバイザーもいます。
それに、この21世紀の戦場では、アメリカ第7艦隊のように、空母を中心とした戦力の投入などは、まったく役にたたないらしいのです。
いまは、高性能なドローンと、標的にたいする着弾点との誤差がわずか5メートル以内というミサイルによる攻撃が中心になっているらしく、それは、ドイツ国内の米軍基地から飛び立った米軍のドローン(ほとんどはイスラエル製)によって、シリアやイエメンやリビアに潜伏しているという「テロリスト」を、過去数年間に渡って殺害しつづけてきたわが国が、いちばん良く知っているはずだ、と批判する戦略アドバイザーたちもいます。
たとえば、海底のドローンと呼ばれる無人ミサイル艇による集中攻撃と、地対空ミサイルでも撃ち落とすことができないほどの極超音速(ハイパーソニック:マッハ5を超える速度だそうです)で飛んでくるミサイル攻撃を受けたとしたら、わずか2、3分で空母は撃沈させられて海のもくずと消えるらしいのです。
そういう意味で、空母などは、たんに小国におどしをかけるための効果しかなく、現実的にはまったく無用の長物でしかない、とUN(国際連合)で長く兵器査察官を務めた方などが述べています。
つまり、シリアやリビアにたいして、宣戦布告もせず、国連による批判をも無視して、一般市民が生活している場所へドローン攻撃をしつづけることはできても、もしもアメリカ合衆国が大国を相手にした場合、向こうも、アメリカと同じように、衛星やドローンを使って、戦場のすみずみまでをもリアルタイムで見ているだろうし、はるか彼方からドローンによるミサイル攻撃をしてくるかもしれない、という可能性を無視してはいけないらしいのです。
彼らもすべてをつぶさに見ているのだから、ほんとうに酷い戦い(ugly combat)になるだろう、と警告する軍事評論家の方たちもいます。
どこに敵側の戦車が何台あって、いま、どのくらいの人数の敵軍兵士たちが丘のどのあたりを歩いているか、ということも、ゲーム映像を見ているかのように、衛星やドローンから送られてくる映像でつぶさに確認することができて、それをながめながら、はるか彼方の基地から作戦を練っているというのが21世紀の戦争なのだそうです。
ほんの一瞬でも、樹々の枝を使って作ったカバーを開けたり、モグラの穴のような深さの塹壕(ざんごう)から顔をのぞかせたりして、その自分の姿を、運悪く、はるか上空で待機しているドローンに搭載された高性能カメラとAIによって認識されると、数十秒後には、そこにミサイルが飛んでくるらしいのです。
そのような戦闘が、じっさいに、現在、ウクライナで現実におこなわれているのだと教えられました。
そして、ロシア軍のドローン攻撃からウクライナの空を守るための地対空ミサイルが供給された、とか、ロシアのミサイル艇をどこどこの国のなんとかという武器で破壊した、とか、ロシア軍の戦車を米国が供給したなんとかミサイルが破壊した、などと、いっけんウクライナ軍が有利に見えるような情報ばかりが検索上位にくるように米国政府がアルゴリズムを操作していたことも、また、ロシア政府もおなじように情報操作を行っていたことが、現在では明るみに出てきています。
ウクライナの国そのものが、西側諸国による武器の展示会(最新兵器のショールーム)になっている、と批判する記事も多くみかけます。
ドローン技術の陳列部屋みたいな状況だと意見する記事もありました。
なにがなんでも天然資源、なにがなんでもお金がすべて
そのような背景のもと、一昨年の2022年9月26日、ノルドストリームが「謎の国家の秘密組織」とやらによって破壊されました。
そのせいで大量のメタンガスが大気中に排出されつづけていたのですけれど、最近、ようやくノルドストリーム2のメタンガス排出はとめることができたもようです。
ご存じのように、ノルドストリームは、ロシアからドイツへ天然ガスを送るためのパイプラインです。
その1本目が完全に破壊され、2本目と3本目も大きな損傷を受けました。
これは歴史上最悪の環境破壊テロ事件だとも言われているもので、不思議なことに、現代のハイテク技術と欧州の各国がおこなった徹底的な調査をもってしても、いまだに犯人を特定することができない、という迷宮入り事件のひとつになっていて、専門家たちも口をにごしているようすです。
ひとことで言えば「それは、知りたくない真実だし、知らないほうがいい真実」(sausage making)であり、「みんな知ってはいるけれど、あえて触れずにいる真実」(an elephant in the room)ということなのでしょう。
ところで、米国政府はそのニュースをうけて、すぐさま「バルト海の底を走るパイプラインを破壊できる技術を持っているのはロシアだし、破壊したのはロシアだ」とアメリカの大手メディアを通じて発表したことをおぼえています。
けれども、それを受けた米国のコメディアンやポッドキャスター、そしてYouTuberたちが口をそろえて「ありえな〜い。自分たちのカネの元になるパイプラインを壊すアホがどこにいるっていうの? もっと常識にそったマトモな理屈を用意してなくちゃね」と大笑いしたため、さっそく「ソーシャルメディアでまちがった情報と意見が垂れ流しになっています」と大手メディアは声高に米国民に注意をうながし、米国政府はわずか2日もたたないうちに「プーチンという人物は、いきなり小国ウクライナに軍事侵攻をするほど理性をうしなっている独裁者であって、かんぜんに精神が狂っているため、通常の理性も、われわれ西側の常識も通用しない」という見解を発表したこともおぼえています。
ところで、巧みな情報操作で「世論」をあやつるお仕事をなさっているスピンドクターと呼ばれる方たちは、表向きは専門家や評論家や解説者としてテレビに登場しますが、彼らの2022年10月初旬当時の説明はこのようなものでした。
「どんな国でも戦争になれば勝利を願うのがあたりまえです。けれども勝てないことがわかったとき、どうするでしょうか。現在のロシアの状況がまさにそうなのです。じっさいのところ、わたしたち西側諸国の援助をうけたウクライナ軍に、ロシアは敗けつづけています。そうなると、大国のプライドを傷つけないためには、なにをどうしても敗北だけは避けようとするでしょう。そのためにはどんなリスクもいとわないでしょう。つまり自分たちに利益をもたらすノルドストリームをみずから破壊すれば、世界の世論は、とうぜんノルドストリームの成功をもっとも苦々しくおもっているのは米国だろうから、おそらく米国が破壊したのにちがいないという方向、つまり陰謀論へかたむくでしょう。ロシアの狙いはそこにあるのです」
ところがロシアのウクライナへの軍事侵攻が2022年2月24日に開始される2週間以上も前の2月8日に発表されたニュース報道において、バイデン大統領が「もしもロシア軍がウクライナへ侵攻したら…つまり…ロシアの戦車や兵士たちがふたたびウクライナの国境を越えることがあった場合(2014年のロシアのクリミア侵攻に言及して)、ノルドストリーム2はなくなるでしょう。我々はそれに終止符を打つでしょう」と口をすべらせ、そこに居合わせたメディア関係者に「でも、具体的には、どういうふうにそういうことができるのでしょうか。なぜならノルドストリームのプロジェクトとそのコントロールはドイツの管理下にあるのですけれど」と質問されて、さらに「約束してもいいですが、われわれにはそれが出来るようになるのです」と答えている動画が公になってしまいました。
くわえて、世界中のジャーナリストから高い評価と尊敬を得ている調査報道記者(investigative journalist)のひとりシーモア・ハーシュ氏が詳しい調査と裏取りの結果、2023年2月8日に、ノルドストリームの爆破には米国政府が関与していると発表しました。その記事にたいするインタビューは1週間後の2月15日に『Democracy Now』によって公開されました。
シーモア・ハーシュ氏はピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストで、過去に、ソンミ村虐殺事件、CIAによる米国民監視計画、ロッキード事件、そして大韓航空機事件などの真実を明るみに出した人物でもあります。
旧ソ連領で、現在のアゼルバイジャン共和国にあった、当時は世界の石油生産の大半を担っていたバクー油田を手にいれるために、ナチス・ドイツがソ連南部のコーカサス地帯へ軍をすすめ、さらにモスクワへ迫って、悲劇的なまでの戦死者を生み出したスターリングラードの攻防戦へとエスカレートしていったことは、みなさんもご存じのこととおもいます。
戦争の背後にうごめく「貪欲」(greed)なるものたち
石油がなくては何もはじまりません。
トラックも戦車も戦闘機も動かすことができなくなるので「戦争」そのものができなくなります。
石油や天然ガスや石炭がなければ火力発電は不可能です。
つまり、電気を作れなくなるので、武器を作るための工場すら動かす事ができなくなります。
冷蔵庫はとまり、電車もとまり、病院施設の設備のすべてが使えなくなり、石油から生み出される農薬も肥料も底をつき、もちろん医薬品もつくれなくなりますし、また、ほとんどすべての化粧品やクリーム類のベースとなっているワセリン(原料は石油です)も生産できなくなります。
もちろん石油や天然ガスから生まれるプラスティック製品も作れなくなります。
また、農業にいちばんたいせつな化学肥料も石油や天然ガスからつくられていますので、農業生産物を輸出することで生計をたてている国が石油を手にいれられなくなったりすると、食品の値段がどんどんあがって、食料自給率が世界最低と言われ、ほとんどの食べ物を輸入にたよるしかないわが国などは、ほんとうに大変な食料不足になってしまうかもしれません。
それに、電気がとまってしまうと、地震の被害をうけた方々が経験なさったように、エレベータは動かなくなりますし、水をくみあげるためのポンプがとまりますので、とうぜん水を使うことも、また、トイレを流すこともシャワーを浴びることもできなくなります。
船など海上の輸送手段とトラックなどの陸上の輸送手段もすべて断たれるので、各都市や市長村にあるスーパーマーケットやコンビニにならんでいる水や食料品は、およそ4、5時間以内にほとんど陳列棚から完璧になくなってしまうことは、過去のある時期にエネルギーの不足を味わった国々(1990年代のロシアや2008年のサブプライム・リーマンショック事件直後のアイルランドや北欧諸国など)を調査した結果でわかっています。
なによりも、全世界の半数以上(2023年の時点で43億人)のひとびとの「命綱」(いのちづな)でもあるスマートフォンが使えなくなります。
スマートフォンが使えなくなりますと、とうぜん電子マネーでの支払いができなくなりますし、アマゾンや楽天などでのショッピングもできなくなりますし、ホテルや病院や学校やその他の施設や公共機関への予約を確認する方法もなくなりますし、なによりも「自分」が「当人」であるということを証明することすらむつかしくなる可能性だってあります。
つまり「本人確認」ができなくなる状況が生まれるかもしれないのです。
そういう意味では、わたしたちがふだんあまり意識することもなく、まるで空気のように呼吸しているこの新たな「デジタル文明」はおどろくほど脆弱なものですし、ひどい自然災害にみまわれた地域のみなさんは、すでに身をもって実感しておられることだとおもいます。
そして、そのような「デジタル文明」のインフラを支配しているのが、アメリカ合衆国の大企業グーグルやアマゾンやマイクロソフトやアップルやメタなどです。
さらに言えば、それらのグローバル・コーポレーションを所有しているひとにぎりの株主たちや、それらの大企業の方針に口をはさむことのできる機関投資家たちがコントロールしているということになります。
けれども、たとえば、欧州には、グーグルやアマゾンやマイクロソフトやアップルに匹敵するグローバル企業はひとつもありません。
ですから、いくらEU(欧州連合)が加盟国を増やしたとしても、その政治的・軍事的な力だけでは、欧州連合の影響力には限界があるのではないかとおもえるのです。
ヘンリー・キッシンジャーが残した有名なことばに「食をコントロールするものが人民を支配し、エネルギーをコントロールする者が国家を支配し、金融をコントロールする者が世界を支配する」というのがありますけれど、この21世紀のデジタル社会においては「情報をコントロールするものが人類を支配する」というセンテンスを付け加えたほうがいいかもしれません。
このことはアメリカの覇権(ヘゲモニー)と地政学(ジオポリティックス)を考える上でとても重要なことではないでしょうか。
戦争で誰が得をするの? Follow the money(カネの流れを追いなさい、そうすれば真実が見えてきます)
戦争はいつも天然資源の奪い合いか、もしくは村や国を統治している方々の利益の追求によって始められるものだということは、ヒトの歴史をふりかえってみると、ほとんど金太郎飴みたいに同じことのくりかえしなので、いまさら言わなくても、という感覚におちいるかもしれません。
それにも懲りず、アメリカ合衆国国務長官のアントニー・ブリンケン氏が「あくまでもこの戦争は代理戦争(proxy war)なのです。われわれアメリカはいっさい傷つくことはありません。われわれアメリカ軍の兵士たちはだれひとりとして傷つくことはないのです。ぜったいにウクライナへわれわれの兵士を送ったりはしません。それは約束します。われわれが望むのは、ウクライナの国民がたとえ最後のひとりになっても、なんとかロシアに勝利してもらいたい、ということだけです」と公共の場で発表することの残酷さと異常さが、アメリカの大手メディアにおいてなんの批判もされない世界になっていることの不思議さがよくわからないのです。
たとえ遠く離れた他国の国民にたいして玉砕(ぎょくさい)を強いることになっても、自分たちの覇権を維持するための戦略的目標を達成し、それによる利益を得ようとする人々がいるというこの世界の現実を認めることを恐れているのかもしれません。
アメリカ政府とウクライナ政府とロシア政府とNATOのかけひき、そしてその他の国々のプロパガンダなどによって、経済を奪われ、生活を奪われ、命まで奪われ、母国まで捨てて難民にならざるをえないウクライナの国民がいちばん苦しんでいることはまちがいないとおもいます。
今年2024年2月15日の時点で、母国ウクライナを去って難民にならざるを得なくなったひとびとの数は、6,479,700人だと発表されています。
この過去40年のあいだ、とくに1970年代後半から主流になった新保守主義に守られつつ、1980年代からはじまったグローバリズム以降、なんだか悪夢のパラレルワールドに迷いこんでしまったような気持ちになるのは、わたしだけなのでしょうか。
ロシアの国営通信社であるタス通信はつぎのように伝えています。
アメリカ合衆国統合参謀本部議長将軍マーク・ミリーとウクライナ軍の最高司令官ヴァレリー・ヒュードローヴィッチ・ザルジニーは去年2023年の4月8日の時点で257,000人のウクライナ兵士が死に、83,000人が行方不明で、そのうちの60,000人は死亡しているだろう、と認めた、と。
なお、アメリカ合衆国議会の出資によって運営されているラジオ・フリー・ヨーロッパの2024年1月20日の発表によれば、ロシア兵の死者数は42,000人にのぼるだろう、とされています。
とは言っても、戦争中に発表される死者数は、たいていどちらの側でも「大本営発表」にならざるを得ないので、眉にツバをつけながらながめたほうがよろしいかとおもわれます。
ただ、ダグラス・マグレガー大佐の調べによると、ウクライナ軍は、2022年4月の時点でほとんど壊滅的打撃を受けていたらしく、プーチン大統領は、それ以降、なんどか「これ以上、戦争をしても無駄で、ウクライナに悲劇を生むだけだ」と打診して、ゼレンスキー大統領も納得し、翌年2023年の2月には和平交渉が結ばれるのではないかとおもわれていました。
けれども、みなさんもご存知のように、英国のボリス・ジョンソン氏が、2023年の1月22日、突如としてウクライナへ飛び、ゼレンスキー大統領と会見して、その交渉は消えてなくなりました。
じつは、あの会見は「ロシアとの和平交渉はぜったいに認めない」という西側諸国の旨をウクライナ側に伝えるためだったらしく、そのせいで和平交渉が頓挫(とんざ)したらしいのです。
そのことが、昨年の夏過ぎから、交渉に関わったひとびとのインタビューによって、しだいに明らかになってきたことをおぼえています。
そんなことよりも、とにかく、ウクライナの国民の大多数が難民になってヨーロッパや世界各地に散っていることのほうが、深刻な問題だとおもいますし、ヨーロッパにとっても大変な事態だとおもいます。
戦争をつづければつづけるほど、国の経済は疲弊し、生活と文化は崩壊し、一般国民が苦しむという状況なのにもかかわらず、現在、アメリカの巨大資産運用会社ブラック・ロックと、枯草剤とGMO(遺伝子組み換え作物)で知られるバイエル(旧モンサント)が、世界でもっとも肥沃な土といわれる「チェルノーゼム」が分布しているウクライナの土地を買い占めていることも伝えられています。
そのためにもロシア軍のさらなる西への侵攻は食いとめなければならないのでしょう。
ある特定のひとびとが利益を得るために、いつまで人殺しと破壊をつづけるつもりなのでしょうか。
何千年ものあいだ、なにひとつ変わらない同じ論法に、わたしたち一般人は、なんどもなんどもだまされてきました。
部族や村の長(おさ)、ファラオや王様、領主や君主、そして独裁者や統治者や監視者たちは言います。
「悪いのは彼らで、けっきょくその犠牲になるのはきみたちが愛している者たちだ。大切なものを守るためには彼らを打ち負かさなければいけない。愛する者たちが安眠を得ることができるのも、きみたちが祖国(領地や王国や帝国)のために戦っているからだ」
そのような、ひとりびとりの感情に訴えかけてくるプロパガンダと、その喧伝に流されていく世間の無言の圧力にうながされ、わたしたちは、いつもしかたなく戦争の必要性を認め、なんどでも、飽きることなくヒトの命は奪われ、また同時に見知らぬ他人の命を奪い、歴史的な価値のある建物だけではなく、理性と文化までもが破壊されてきました。
それは誰のために、誰が始め、誰が利益を得るための戦いだったのでしょうか。
母を失ってすでに10年がたつのですが、太平洋戦争で兄弟のふたりを亡くした彼女の悲しみが、いまでも、まるで自分のことのように、ときおり、夢のなかでこの胸をしめつけることがあります。
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