メタクエスト用VRゲームからの視点
アップル社が発表した空間コンピューティング・デバイス『Apple Vision Pro』もしくはXR(クロスリアリティ)デバイスにたいするメディア・サーカス(マスコミの熱狂的大騒ぎ)も、すこしずつ落ちついてきました。
後出しジャンケンみたいな形ではありますけれど、『Vision Pro』というアップルの新製品をとりまく状況を、わたしなりの印象と感想をまじえて書いてみたいとおもいます。
まず、アップルのWWDCが開催されるほんの数日前の2023年6月2日には、メタ社(元フェイスブック社)にとっては第3回目となる『Meta Quest Gaming Showcase(メタクエスト・ゲーミング・ショーケース)』が開催されました。
そして、アメリカのメディアでは、そのMeta社(元Facebook社)のCEOマーク・ザッカーバーグとApple社のCEOティム・クックとの熾烈なライバル関係をとりあげることが、ひとつのHype(ハイプ:あおり)になっていました。
メタvsアップル、という図式です。
ですから、メタクエスト・ゲーミング・ショーケースのすぐあとに開催されたアップルのWWDC23 Keynoteには、べつの意味でも興味をそそられていたのです。
私的アップル事情
とにかく、この『Apple Vision Pro』と呼ばれる空間コンピュータ(もしくはクロスリアリティ・デバイス)の登場は大ニュース、いえ、大事件でした。
まさにテック・カーニヴァルとでも呼べるようなお祭りでした。
ほとんどの方々が褒(ほ)めちぎっておられました。
わたしにはとても手のとどく価格(50万円するそうです)ではありませんけれども、ワクワクドキドキしながら、Appleならではの戦略的で洗練されたプロモーションビデオを、興味深く、見せてもらいました。
そのテクニカルな詳細については、Apple社が提供している『Apple Vision Pro』のWebページをごらんになってください。
また、最新デジタルガジェットの紹介をすることで、わずか6時間ほどで50万回を超える再生回数を達成するようなテック系YouTuberの方々のビデオがたくさんアップロードされていますし、最新テクノロジーに関する専門家による素晴らしい紹介記事を掲載しているテック関連のWeb雑誌なども数多くありますので、ネット上でお探しになってお読みください。
わたしはちょっとちがう角度からお話ししたいとおもいます。
Appleが口にしなかったことば
おもしろいことに、「23WWDC Apple Keynote」のうちの45分間をうめつくすほど力のこもった『Apple Vision Pro』のプロモーションだったのですが、最高経営責任者のティム・クックをはじめとして、アップルのエグゼクティブたちがひとことも口にしなかったことばがいくつかあります。
① Mixed Reality(ミクスト・リアリティ:複合現実)
② Augmented Reality(オーグメンティド・リアリティ:拡張現実)
③ Virtual Reality(ヴァーチャル・リアリティ:仮想現実)
④ Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス:人工知能)
⑤ Metaverse(メタバース:メタ社のかかげた仮想現実空間のなかの社会)
これらがそうです。
しかも、これらはすべて、この過去数年間のあいだ、主要メディアでもっとも注目されてきたことばと概念ばかりです。
けれども、Keynote(キーノート)のプレゼンテーションに耳をかたむけていると、おどろくことに、これらのことばは1度も使われていないのです。
だれの口からも、まったくゼロです。
空間コンピュータの登場
それらのことばを使うかわりに、まず最初にティム・クックが強調したのは、2003年にサイモン・グリーンウォルドが定義した『空間コンピューティング(Spatial Computing)』ということばでした。
ウィキペディアの説明ではわかりにくいところもあるかもしれませんが、トム・クルーズ主演の名作SF映画のひとつ『マイノリティ・レポート』のこの場面をごらんになったら、空間コンピューティングというものが、だいたいどういうものなのかがおわかりになるとおもいます。
もしくは『Iron Man 2』で描かれているトニー・スタークと「Just A Rather Very Intelligent System(ほんのちょっぴりかしこいシステム)という名のAI「J.A.R.V.I.S(ジャーヴィス)」とのやりとりをごらんになれば、だいたいの見当はつくかとおもわれます。
ところで、この空間コンピューティングというものは、そのことばが使われていなかっただけで、『Meta Quest Pro』がすでに実現していたものでもありました。
没入型の環境
さて、つぎにアップルが使ったことばはなんでしょうか。
VR(ヴァーチャル・リアリティ:仮想現実)ということばを使うかわりに『没入型の環境(Immersive Environment:イマーシヴ・インヴァイロメント)』ということばを使っています。
ご存知のように、「immerse(イマース)」という動詞は、お風呂に「つかる」とか、なにかに「没頭する・夢中になる」という意味なのですけれど、それにくわえて、ときたま海外の映画で目にする「浸礼(immersion:イマージョン)」の場面でも使われることばです。
キリスト教徒になるための洗礼を受けるときに、白衣に身をつつみ、全身を水のなか(川や池や湖や海やプールなど)に沈められる場面を見たことのある方もおられるかとおもいます。
あれも「immerse」という動詞をあらわす行為のひとつです。
機械学習
でも、わたしがもっともおどろかされたのは、いま、メディアを熱狂的に騒がせている『AI(人工知能)』ということばが1度も使われなかったことです。
かわりに、AIによる『機械学習:マシン・ラーニング(Machine Learning)』について語っていました。
でも、その「機械学習」ということばのみを強調し、親である「AI」ということばにはいっさい触れないでいることに、すこし疑問を感じたりもしました。
このマシン・ラーニングというのは「学習したデータをもとに先読みをすること」です。
みなさんは、ふだんからスマートフォンを使ってメールをやりとりしたり、LINEなどで文章をやりとりなさっていることとおもいます。
そのときに、みなさんの文章やことばづかいのクセを学んで、「もしかしたらあなたが書きたかった単語とか文章はこれじゃない?」というふうにスマートフォン側が勝手にほかの選択肢を提示してきます。
あれがマシン・ラーニングの結果です。
ようするに「自動入力(autofill)機能」みたいなものです。
またアマゾンや楽天などで、「いままでのあなたの好みや買い方のパターンからすると、もしかして、いまはこういう製品をさがしているんじゃない?」というふうに勝手にさまざまな製品を宣伝してくるとおもいます。
あれも単純なマシンラーニングの結果です。
たとえば、いま話題の「ChatGPT」も、いっけんヒトとおなじような意識や感性をもっているかのように感じられますけれど、その根本にあるのは、たんに先読みのための自動入力(オートフィル)を高度に進化させたものでしかありません。
そのために、兆単位の膨大なデータを読みこませ、さまざまなパターンを学ばせているわけです。
では、どうしてアップルは「MR」や「AR」や「VR」や「AI」や「Metaverse」ということばには触れないでいたのでしょうか。
すでに他で使われていて、しかもライバル企業がすでにひろめていることばだから、というのも、その理由のひとつだとおもいます。
つまり、他社の製品と「比較」されることを拒んだのでしょう。
それと、もうひとつは、これらのことばが、もしかしたら近い将来、社会的にネガティヴな意味をもちはじめるかもしれない、という懸念があったのかもしれません。
もしくは「新たな製品と新たな視点によって、それらのことばをネガティヴなことばに変化させることこそが、われわれアップルの仕事なのだ」というアップルならではのプライド、というか、傲慢さ(hubris)によるものだとも考えられます。
スピーチライターの苦悩
1984年からずっとスティーヴン・ジョブズのスピーチライターをつとめていた方々のなかに、有名な広告マンSteve Hayden(スティーヴ・ヘイデン)という方がいます。
アップル社が定期的に開催しているKeynoteなどのプレゼンテーションにおいて、例の独特な「Intelligence with Wit」(機知に富んだ知性)を感じさせる話し方の基礎を作った方です。
つまり、ステージに立っているときのスティーヴン・ジョブズが話す内容は、すべてこの方が書いていたわけですが、現在も残っている原稿によると、なんと間(ま)の取り方や強調の仕方までもがていねいに指示されていたということなので、言うなれば、Apple社のブランド・パーソナリティ(社風)をつくりあげた人でもあります。
また、Apple社のなかにスピーチライター部門を創設し、幹部の方たちのプレゼンテーションやプロモーションに数多く貢献してきて、現在は詩人になられたJayne Benjulian(ジェイン・ベンジュリアン)という方もいます。
そのお二人のインタビュー記事を読んでみますと、Apple社のスピーチライターとしてCEOやエグゼクティブのためのプレゼンテーション用の文章を書くときには、米国大統領のスピーチライターの方々とおなじような緊張を強いられた、と語っておられました。
アップルの場合、ライバル企業は、SONYやSamsung(サムソン)やマイクロソフトやメタやGoogleやHuawei(ファーウェイ)といった、みずからと同じようにパワフルなグローバル・コーポレーションばかりです。
それに1年以上も前から新製品に関するさまざまなウワサがたちます。
また、内部情報などがもれたりすることもあります。
おまけに世界中にいる狂信的なまでのファンの期待を裏切るような内容ではダメです。
しかも圧倒的に革新的だと感じさせることばづかいと落としこみが必要となります。
それにくわえて、Appleの株主(ストックホルダー)や大口の機関投資家(ファイナンシア)などがいます。
彼らはWWDC Apple Keynoteを注意深く見守っていますので、彼らの機嫌をそこなわないようにしなければいけません。
それらのイベントでの新製品の発表の良し悪しと、大手メディアにおけるテック評論家やソーシャルメディアで活躍しているインフルエンサーたちの評価によっては、これから先の投資動向が大きく変わる可能性があるからです。
Appleほどのグローバル・コーポレーションですから、もちろん多くのインフルエンサー(サクラ:提灯持ち)の方たちを雇ってアストロターフィングをおこなっているのは当然のこととはおもいますが、それでもけっきょくは一般のひとびとの気分そのものがどう動いてどの方向へ傾くか、というのがいちばん重要な目安になるようです。
もとはといえば、そのためのインフルエンサー(サクラ)なのですから。
Apple Vision Proの可能性とメタクエスト2
とにかく、今回、アップルが強調したかったのは、『空間コンピュータ(Spatial Computer)』ということばに代表されるように「生産性」と「効率」を上げるためのお役にたつデバイスですよ、ということのように見受けられます。
ちょっと考えてみただけでも、たくさんの可能性があることはたしかです。
『アイアンマン2』のトニー・スタークのように、ご自分のお部屋のなかに浮かんで見えているWebブラウザやアプリを使って、プロモーションビデオそのままに、立ったり歩いたりしながら仕事をすることが可能になります。
じっさいにメスをにぎる前の医学生たちに、CGで描かれた人体を対象に、さまざまな手術の方法を、立体的に、まるでほんとうの患者をじっさいに相手にしているかのようにして学ばせることだってできるでしょう。
また、たとえば、建築家や自動車のデザイナーの方々にとっても、作ったモデルを、さまざまなサイズで、さまざまな角度から、立体的に確かめることができますので、とても効率的(わたしの苦手なことばのひとつです)で経済的だとおもいます。
スマートハウスなどにお住まいの方でしたら、家電や監視カメラをすべて『Apple Vision Pro』でコントロールすることができるでしょうし、ドローンや家族の方が乗っている電気自動車のカメラが見ている風景を、そのまま映し出すことだって可能でしょう。
それにくわえてAppleが強調したかったのは、『没入型の環境(immersive environment)』ということばでした。
そのことばが示しているのは、片目4Kの画質(解像度は3840x2160)で、どこにいてもIMAXなみの大画面でお好きな映画を観れます、ということでもありました。
ところで、『メタクエスト2』では片目が2K(解像度は1832x1920)なので、映画を観るときの画質はいちおうフルHD(解像度1920x1080)どまりですけれど、それでもフツーに問題なく画面はきれいですし、自由自在にスクリーンの大きさを変えることもできますので、IMAXとはいかないまでも、おなじように映画館の大画面で映画を楽しんでいるような没入感はじゅうぶんに得られます。
それに、50万円の価格のついた『Apple Vision Pro』とおなじく、わずか47,300円で手にすることのできる『Meta Quest 2』も、そのリフレッシュレートは90です。
しかも、メタクエスト2の場合は、60/72/90というリフレッシュレートを選択できて、また、Windowsマシンにつないだ場合、なんと120Hzというリフレッシュレートにまで上限を引きあげることができますので、よりいっそうなめらかで高品質なVR体験を楽しむことが可能になっています。
メタクエスト2による映画体験
『Apple Vision Pro』を褒めたたえている海外のYouTuberの方々のなかには、メタクエスト2の映画体験はひどいもので、とくにAmazonの『Prime Video VR』アプリで映画を観ると、画像の質の悪さだけでなくバグの多さからも吐き気をもよおした、とまで言っている方がいます。
でも、クエスト2をお使いの方なら、どなたでも「プライムビデオVR」アプリはダメだクズだ(ごめんなさいね、Amazonさん)ということはご存知のはずです。
それに、映画を観るだけの目的でしたら「Skybox」というアプリを使うのがいちばんです。
わたしに3D映画の凄さとすばらしさを教えてくれたのもこのアプリでした。
いったん3D映画にならされてしまうと、平面ディスプレイで映画を観ようという気がおこらなくなります。
まさに「感性の革命」といった体験だったのかもしれません。
映画の楽しみ方はほかにもいろいろあります。
超人気の「Bigscreen VR」ゲームのなかに入り、仮想現実空間に作られたさまざまな趣向をこらした映画館へ出かけていくこともできます。
そこで、自分好みの席を見つけて腰かけ、世界中の方々と仮想現実のポップコーンを投げ合ったり、オレンジジュースをじゅるじゅるとすすったりしながら、無料映画を楽しむか、「Bigscreen VR」に無料で割り当ててもらった豪華なお部屋に友だちを招いて、みんなとワイワイガヤガヤ話しながら試写会を楽しむという手もあります。
Apple Vision Proの視線追跡とハンドジェスチャ
そのことにもつながるのですけれど、まず、わたしにとって、いちばん大きな驚きは、Apple Vision Proが(いまのところは)VRゲーム機ではない、ということでした。
それに、今回のWWDCを見るかぎりでは、さきほどご説明したように、Apple社はこのデバイスをVRゲーム機としては売りこんでいません。
また、ARの専門デバイスとも言っていませんし、またMR(ミクスト・リアリティ)用のデバイスとも言ってはいません。
じっさいにはMR用(複合現実用)デバイスと言える仕様ですし、AR/VR/MRのすべてにアクセスが可能なのですから、ひとことで言えばクロスリアリティ用デバイス(XRデバイス)なのですけれど、それでも、アップル側にとっては、あくまでも空間コンピィーティング用デバイスという位置づけです。
この『Apple Vision Pro』は、視線の行方を正確にとらえることで、PC用のマウスやVR用コントローラーでポインターを操作するのと同じことができます。
また、ひとさし指と親指で「OKサイン」を作るような、とてもシンプルなハンドジェスチャと、ほんのわずかな手首の動きだけで、クリックやダブルクリック、もしくは画像の拡大・縮小・回転、そしてドラッグにいたるまで、いま、みなさんがMacOS環境で使っておられるマウスやトラックパッドで可能なことは、ほとんどすべて、同じようにできるようです。
このハンドジェスチャによる操作は、Meta社の「Quest Pro」のプロモーションビデオをごらんになった方にはおなじみのものですけれど、これからのVRゴーグル・ヘッドセットにおいては、視線追跡とあわせて、標準機能のひとつになるのかもしれません。
もともと視線は、願望の指先、みたいなものだとおもいます。
ヒトの脳に直接つながっている眼球がもたらす大切な情報のひとつでもあります。
つまり、無意識の心の動きをすら視線から読みとれるわけです。
また、『Apple Vision Pro』の場合、視線の動きだけではなく、瞳孔を開いたり閉じたりして光の量を調節するために大切な役割をになっている虹彩の伸縮をすらモニターできるようです。
この虹彩の伸縮は、たんに外界から入ってくる光の量を調節するためだけではなく、たとえば男子学生に女性の水着姿の写真を見せたり、女子学生に可愛らしい子猫や子犬の写真を見せたりすると、瞳孔が大きくひらき、交通事故の現場写真や苦悩している人の顔写真などを見せると小さく閉じる、ということは行動神経科学の実験ですでに知られていることのようです。
つまり、視覚がうけとめた情報を、脳が「好ましい」ものと判断するか「好ましくない」ものと判断するかは、虹彩の伸縮をモニターすることによって、かなり正確にわかるらしいのです。
つまり、瞳孔の大きさの変化を読みとれるということは、ある商品を見たときや、ある記事を読んだときのコンシューマーの感情の起伏と好みを読み取れるということでもあります。
このような視線追跡や虹彩の伸縮のモニタリングから得られる個人情報が、これから先、どのような目的に使われるのか、気になるところでもあるので、注視していきたいとおもいます。
とにかく、わずかな遅れ(ラグ:lag)もなく、ただ望んでいるものへ目を向けるだけで、自由自在に、すばやく、しかも正確にその対象物を選択できるという機能は、じっさいに試された方々が口をそろえて「magical(魔法みたい)」という表現を使わずにはおれなかったのも、とうぜんかもしれません。
触覚フィードバックの重要性
ただし、VRゲーム機ということになりますと、話はすこしちがってきます。
どうしてもコントローラの類(たぐい)が必要になるのです。
コントローラがもっているバイブレーション機能が、VRゲーム機にとっては、とても大切な要素のひとつだからです。
VRゲームの世界では「ハプティック・フィードバック」(触覚フィードバック)がなければ何もはじまりません。
なにかを選択したときや、仮想現実空間でなんらかのアクションをしたときに、その結果や成果をバイブレーションやその他の電気的刺激で伝えてくれるからこそ、その幻想の世界で起こったことが、まるでほんとうの現実の世界で起こったことのように感じとれるのです。
仮想の世界での出来事を、まるで現実の世界での出来事のように信じるためには、なんらかの刺激を体に伝える方法がいちばん手っ取り早いのです。
体感なしには、夢は夢のままでしかありません。
仮想空間のなかで指先に蝶々がとまったとき、なんの刺激もなければ「あ、これって、やっぱりたんなる仮想現実の世界なんだ」と夢から覚めてしまいます。
蝶々がとまった瞬間、ブルッと手がふるえたりすることで、夢の世界が現実に起こったことのように錯覚されるのです。
つまり、CGで描かれた蝶々が、じっさいに指先にとまったかのように感じとれるのです。
また、VRゲームの野球や卓球やバスケットやボーリングで遊んでいる時、たとえば、野球のボールを受けたときや、それをバットで打ったときに、ブブッというような振動がつたわってこなければ、すべてのアクションはまさに「絵に描いた餅」になってしまいます。
このような意味で、VRゲームの世界では触覚フィードバックをもたらしてくれるお道具がかならずと言っていいほど必要となるのです。
エリートVRプレイヤーとクエスター
話はかわりますが、「Occulus Rift(オキュラス・リフト)」や「HTC Vive」、「Valve Index」、そしてわが国が誇る「Playstation VR」で、2016年のころからVR世界で遊んでこられた方々がおられます。
VR世界で「エリートVRプレイヤー」と呼ばれている方々です。
ですから、たとえオタクでハードコアでニッチ市場などと批判されても、その世界はその世界なりの歴史と奥深さをもっているのです。
たとえば、わたしのように、ようやく2021年からMeta Quest 2でVR世界へのデビューを果たしたプレイヤーなどは、ほんとうに新参者で、VRのSocial Game(ソシャゲー)で有名な「VR Chat」や「Rec Room」などに入って遊んでいるときでも、いわゆる『Quester(クエスター)』と呼ばれるタイプに分類されているようです。
差別されているわけではありません。
それなりに丁寧な「あたらずさわらず」の対応をされることはあります。
そういう「エリートVRプレイヤー」の方たちは、たいてい高性能なWindowsマシンにケーブルでつながった状態でVR世界を楽しんでおられるので、スタンドアローンで遊んでいる状態のメタクエスト2のスペックでは、どうがんばっても追いつけないところがあるからです。
とくに「VR Chat」などでは、可愛らしいアニメ風アバターをはじめとして、考えられる限り多種多様なアバターを使っているプレイヤーのみなさんがいて、そういう方々は、自分のアバターの手足すべてを自由自在に動かすことのできるボディトラッキングを身につけておられるので、わたしたちのように腰から下だけが奇妙な動きをみせる『クエスター』にはすぐに気がついてしまうようです。
仮想空間と視覚の体験化
このような仮想空間の内部では、架空のアバター同士が互いに握手をしたとき、じっさいの現実世界でもその触感を味わえるように、さまざまなハプティック・グローブ(触覚手袋)を使っている方たちがいます。
また、仮想空間での戦闘ゲームをプレイ中に、相手から殴られたり蹴られたり、または銃弾を受けたりしたときに、殴られた箇所や弾を受けた箇所に、それなりの電気的な刺激を発生させるようなハプティック・ベストや全身用ハプティック・スーツなども売られています。
つまり、スティーヴン・スピルバーグ監督が制作した『Ready Player One』というSF映画に描かれていたようなVR体験と仮想現実空間に、あと数歩で追いつくかも、というようなところまで進化してきたのが、現在のVRゲームプレイヤーの世界なのです。
いちどでもヘッドセットをつけてVRゲームをなさった方ならわかってくださるとおもいますけれど、Playstation用コントローラーやNintendo Switch用コントローラーのHD振動が大切である以上に、仮想現実空間でのゲームには触覚フィードバック(Haptic Feedback)がとても重要な鍵をにぎっているとおもいます。
とはいっても、『Apple Vision Pro』は驚くほど正確に手の位置をトラッキングすることが可能だということですし、しかも、その手指のジェスチャを正確に反映したアクションを、なんの遅れもなく起こすことができるらしいので、わざわざ他社の製品に似通ったコントローラーを作る必要はないとおもわれます。
なぜなら、さまざまなパターンのバイブレーションを発生させることのできるリング、もしくはリストバンドのようなものを手首にはめるだけで、そのまま触覚フィードバックを得ることが可能になるでしょうから。
あとは、さまざまな手指のジェスチャに応じて変化するバイブレーション・パターンを発生させれば済むことだとおもいます。
みなさんご存知の『Beat Saber(ビートセイバー)』で、前方から向かってくるブロックを切った瞬間に手首がブルッとふるえたり、『ピストルウィップ』で銃を撃つたびに手首がズンッとゆれたり、仮想現実空間のなかで見かけたお化け屋敷のドアをあけるときに、ブブブゥ~と手首がふるえたりすれば、それなりに『Immersive Experience(イマーシヴ・イクスペリエンス:没入型体験)』を味わえるのではないかとおもいます。
アバターと性の多様性
つぎに、VR世界の、とくに『VRChat』や『Rec Room』、『PokerStars VR』や『Bigscreen VR』などの、いわゆるソーシャルゲームで大切なのはアバターです。
アバターになりきる楽しさは、Apple社のプロモーションビデオで自分の顔をスキャンするのとは正反対に『まったくの別人になれるからこそ楽しい』というひとことにつきます。
たとえば、わたしが、20歳前後の超イケメン青年のアバターになりきって『VRChat』の仮想現実世界を徘徊(はいかい)しながら、あきらかに自分の生(ナマ)の声を使って話しているとおもわれる少女を見つけて、彼女を誘惑することが可能な世界。
それが仮想現実空間でのアバターの楽しさなのです。
現実の自分とはちがう自分になれる。どんなモノにでも変身できる。
これです。
道の向こうから背丈が2メートルほどのゴジラが歩いてくるから、なんだろうとおもって「こんにちは」と声をかけてみると、16歳くらいの少年のかぼそい声が「あ。どーも。はじめまして」と返ってきたり、セーラー服姿の可愛らしいアニメガールに近づいていったら、落ちついた中年男性の声が「わたくし、このVRChatの世界でコンビニを運営しているオーナーの◯X▽□です」と返してきたり、仮想現実空間で美しい桜並木を歩いているとき、腰に刀をさしたサムライ姿の男性を見かけたので、さっそく話しかけたら、ちんぷんかんぷんの外国語が返ってきて、なんとか英語で話せないかとお互いに苦労したあとに、ようやく相手の方がノルウェーのプレイヤーだということが判明したり…。
ようするに『アバターとは、もとからノンバイナリー(性別不明)で、年齢不詳で、国籍も人種も問われない存在』だったのです。
そこがアバターのアバターらしさですし、アバターがあたえてくれるスリルと快感のルーツなのだとおもいます。
そのいちばん肝心な部分をアップルは削りとっていました。
無視したわけではないとおもいます。
たぶん、アップルは、そのような仮想現実におけるソーシャルゲームを徹底的にリサーチしたときに、その世界がいかにオタクっぽいもので、不思議で奥深く、閉鎖的ではないにしても、一般人から見たら、かなり特殊な世界であることには、とうぜん気がついたはずです。
そしてアップルの立ち位置とブランディングの質を考慮にいれて、かなり悩んだのではないでしょうか。
つまり、アップルの製品を好む、ちょっぴり気取ったプチ・ブルジョア指向のひとびとで、自分を先進的だとおもってはいるけれども、モラル的にはちょっぴり保守で、じっさいにみずから革新的な技術の製品や部品を見つけてきてカスタマイズしたりすることはせず、どちらかといえば性能(パフォーマンス)よりも見た目(デザイン)のほうが大切で、いつもきちんとお利口さんにアップルが供給してくれる新製品を待つ、といったタイプの消費者(これもわたしが苦手なことばのひとつです)を想定したとき、このようなひとびとを、すでに確立している『VRChat』のような仮想空間へつれていくには、よりいっそうの資金力と人材と時間が必要となるかもしれない、という懸念を抱いたのかもしれません。
わたしは、1994年に発売された「Macintosh LC 575」からずっとAppleのデスクトップコンピュータを使ってきて、2008年には、iPhone 3G を使いたいがために、長くお世話になってきた AU を去って、まだはっきりとした姿の見えないソフトバンクと呼ばれる会社に乗り換えたりもしましたので、いわゆる盲目的にApple社の製品を崇拝する「Apple信者」ではないにしても(Huawei のタブレットなども使っています)、ほぼ上記の消費者のひとりにふくまれることはまちがいありません。
ただ、「モラル的にちょっぴり保守」といえるのかどうかはわかりませんけれど…エロティック短歌なんていうものも書いていますし…なんて、ちゃっかり宣伝したり。
とにかく、Appleファンだけのために、『VRChat』に取って代わるような、しかも、明るく健康的で友好的で、ちょっぴり保守的でもあるソーシャルゲームをサードパーティに作らせるためには、それなりの地盤が必要となってくる、ということにアップルは気がついたのではないでしょうか。
社会学では常識となっている20-80%ルールというものがあります。
80対20の法則とも言われているようです。
20%の原因から80%の結果が生まれる、という法則です。
たとえば、インフルエンザの流行が終わったあとでも、まだみんながマスクをしているときに、勇気をふりしぼってマスクをはずすひとがいるとします。
その方たちが2割になるまでには、そうとう長い時間がかかりますけれど、不思議なことに、ひとびとの群れのなかの2割の方がマスクをはずすところまでくると、残りの8割の方たちまでもがいっきにマスクをはずしてしまうという現象です。
10人のうちの2人がマスクをはずすまでには6か月かかったのに、いったん2人がマスクをはずしたとたん、残りの8人がマスクをはずすのにはわずか1週間ですんだ、というような現象です。
つまり、わたしたちヒトという生き物が、社会の中で何か新しいことをはじめるとき、人口の2割を占めるひとびとにそれがひろまるまでは長い時間(年月)がかかるけれども、いったん2割のひとびとがその新しいことをはじめたら、そこからはあっという間に残りのひとびと全員にひろまる、という法則です。
仮想空間への入口に立ちはだかる高い壁
ところが、これがVR(仮想現実)の世界ではそうもうまくいかないのです。
うまくいかないからこそ、オタクっぽい独特な楽しい世界が繁栄しているのかもしれません。
とは言っても、仮想空間の世界にくわしいYouTuberの方たちは、いつでもわたしたち一般人を大歓迎してくれます。
たとえば『メタクエスト2』が2000万台の売り上げを達成したときに、いちばんよろこんでいたのは、うんと前から「オキュラス・リフト」や「VIVE」や「Valve Index」や「PSVR」を使っていたYouTuberの方々です。
一般のひとびとが入ってくればくるほどVR市場は豊かになり、すばらしいゲームが生まれ、ソーシャルVRゲームもにぎやかになり、よりいっそう安価で高性能なAR/VR機なども作られるようになり、自分たちのYouTubeビデオの再生回数も上がるだろう、というのがその理由でした。
それでも、機関投資家や株主との問題とは別に、あるひとつの、どうしようもない壁が立ちはだかっているようにおもえてなりません。
その壁とは、VRゴーグルと呼ばれるもの、VRヘッドセットと呼ばれるもの、そのものが抱えている問題です。
拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、もしくは複合現実(MR)を楽しむためには、映画『マトリックス』でもおなじみのように、脳(視神経や視覚脳など)に直接電気的刺激を与える方法を選ばないかぎり、どうしてもメガネっぽいものが必要になる、というのが大きな壁なのです。
その技術を活かすための道具そのものがネック(障害)なのです。
WWDCから10日以上もたって、ようやく、今回アップルが口をつぐんでやりすごそうとしたヘッドセットの重さが、もしかしたら500gを超えているのではないかという情報が出てきました。(※2024年2月3日の時点で、じっさいに購入したYouTuberの方々の情報によりますと、重さは650gだそうです)
他の会社の製品は、ヘッドセットを軽くするためにプラスティックを使っていますけれど、アップル社のものは、デザインとしての美しさを追求しているせいで、ガラスとアルミニウムを素材にしています。
重たくない、と言ったらウソになるでしょう。
しかもフロント部分がすべてガラスで仕上げられているということなので、とうぜん重さは顔、とくに鼻と頬骨にかかってきます。
(※2024年2月7日の時点でわかったことは、真っ黒なフロント部は合わせガラス(ラミネートガラス laminated glassで作られていて、プラスチックの表層部がその内側のガラスを守っているのだそうです)
またガラス製ですので、いちど床に落としたら、一瞬にして粉々になってしまうでしょう。
50万円とはまた別に、かならずAppleCareのプランを購入しておかないと、おそらく、とんでもない修理代を請求されるはずです。
でも、これらはアップルだけの問題ではありません。
『メタクエスト2』にしても、上体を起こしたまま2時間以上装着していたら、かなり首すじが痛くなってきますし、顔にはヘッドセットの輪郭のアトがついてしまい、しばらく時間をおかないと、外へ出かけられないような気分になります。
ほとんど重さのないような水中眼鏡ですら、それをつけたままPCの前にすわって2時間ほど仕事をしてみてください、と言われたら、ほとんどの方々はうんざりするはずです。
わたしだって例外ではありません。
ゴーグルやヘッドセットをつけたときの、あの閉塞感、が耐えられないのです。
すでにお気づきになっている方もおられるかもしれませんが、『マイノリティ・レポート』のトム・クルーズも、『アイアンマン2』のトニー・スターク役で知られるロバート・ダウニー・ジュニアも、空間コンピューティングをおこなっている場面で、顔にゴーグルのようなものをつけたりはしていません。
にもかかわらず、わたしは、なぜ、いまだに、仮想現実のゲームを楽しんでいるのでしょうか。
好きなゲームを遊んでいるからです。
英語を学ぶために留学するのではなく、興味のあることを学ぶために留学するのでなければ、けっきょく英語は上達しません、ということばを耳にした方は多いのではないでしょうか。
おなじことはVRのヘッドセットとソフトウェアについても言えます。
そのVRヘッドセットでなにをしたいのか、どんなゲームをしたいのか、どんなふうに「みんな」とつながりたいのか。
それがわかっていないと、どうしようもありません。
それがわからなかったり、興味をもてなかった方たちは、そろって三日坊主で終わってしまうでしょう。
つまり、いままで見たこともない別世界へ連れていってくれるはずのVRヘッドセットも、ぜんぶタンスの肥やしになってしまうはずです。
Apple Vision Proの問題点
今回、WWDCに登場した『Apple Vision Pro』は思い出の映像を3Dで残せるようです。
また、映像化された自分の部屋を見ながら、その空間に仮想のディスプレイを配置して、ネット検索したり、動画を見たり、メールを送ったり、文章を書いたり、絵を描いたり、FaceTimeを使って家族や友人や恋人とコミュニケーションをとったり、さきほど説明させもらいましたように、大画面で映画を観たりすることもできます。
それを4Kの画質で行えるのですから、ほんとうにすばらしいことだとおもいます。
でも、これだったら、もしかして、iMacやMacBookやiPhoneやiPadでもじゅうぶん可能なことじゃないの?
そうおっしゃる方がいても不思議ではありませんし、50万円を支払うのだったら、8Kの大型テレビと高級オーディオシステムを購入したほうがいいや、とおっしゃる方だっていらっしゃるでしょう。
結論を申しますと、現在、市場に出まわっているVRゴーグルやVRヘッドセットを使うかぎり、それを顔に装着して、みなさんがふだんPCやラップトップやスマートフォンで行っているのと同じような仕事ができるとはおもいません。
いまの技術では、たとえそれがMR用のヘッドセットであっても、一般の方たちがそれを顔に装着して「生産性」と「効率」をあげるためのお仕事をするとは、とうていおもえないのです。
プロフェッショナルな方たちが業務用に使用する、ということをのぞいては。
それがわたしの正直な感想です。
仮想空間で遊ぶことの楽しさ
『Pokemon Go』をお作りになったNianticのCEOにとっては、じっさいの現実社会で他者とのつながりを作ろうとしないVRゲームなどは、悪夢的な未来(ディストピア)を予見させるものでしかない、ということになるらしいのですけれど、発売された当初から、いまにいたるまで、ずっと『Pokemon Go』が大好きで、楽しませてもらっているわたしですら、そうはおもいません。
VRの良さは3つあります。
いままでのIT機器では味わうことのできなかった360度の仮想現実世界を見せてくれるというのが、ひとつ。
みなさんの目が(つまり脳が)過去に味わったことのない刺激を受けることができるはずです。
仮想空間のなかに入りこんで、行ったこともないし、行くこともできないだろう海外の街並みや、この世に存在しないような湖畔の風景をながめているだけでも、ずいぶん幸せな気持ちになれます。
作られた現実にも、虚構(きょこう)なりの真実があるのかもしれません。
ただ、このVR体験も、たとえばYouTubeなどで、2次元の平面ディスプレイによるプロモーションビデオをごらんになっているだけでは、つかみにくいのです。
じっさいにVRヘッドセットをつけて、その世界をのぞき見た方でないと、それがどんなものなのか、まず絶対と言っていいほど想像しにくいものなので、これも一般の方たちへの普及をはばんでいる壁のひとつかもしれません。
なにがなんでも、じっさいに体験してみなければわからない世界、なのです。
でも、それだけに、いちどでも体験なさった方は、良いにつけ、悪いにつけ、まさに感性の革命とでも呼べるような驚きと衝撃を味わうことができるだろう、と信じています。
ふたつ目は仮想空間で他者に出会うことができる楽しさです。
仮想空間には仮想空間の社会体験と対人関係があります。どちらもたんに〈擬似〉(らしいもの)でしかないのかもしれませんけれど。
地理的な距離感がゼロの社会で、国とことばのちがうひとびと出会って、さまざまなコミュニケーションの方法を学ぶことができるのではないかとおもいます。
近づいてきた吸血鬼のアバターに話しかけたら、アメリカのアリゾナ州に住む高校教師だったり、可愛らしいカエルキャラのアバターと握手したら香港のプレイヤーだったりするのですから、国際電話というものが古代人の使っていたサービスにおもえてしまいます。
そして三つ目は、なにがなんでも、VRのゲームで遊ぶこと。
ついさきほど「ゲームで遊ぶこと」と言いましたけれど、VRゲームによっては、有酸素運動と、ダイエットのためのエクササイズを楽しめるものがあります。
また、エクササイズのために特化したゲームともなると、目の前にあらわれたエクササイズコーチにしたがって楽しく体を動かしているだけで、ほんとうにハァハァと肩で息をしながら汗びっしょりになってしまうほどです。
頭にVRヘッドセットをかむったまま、本気で痩せることだってできます。
このゲーム&エクササイズ両方の楽しみ方は、いままでのPCゲームやスマホゲームでは不可能なことでした。
そして、いまのところ、これらの要素だけが、一般の方たちを複合現実(MR)の世界に呼びこむために、もっとも効果的なものではないかと信じています。
Apple Vision Proの未来
けれどもアップルは、わたしの目にはもっとも大切な要素だとおもえるゲームにも、また、仮想現実空間における社会体験(ソーシャルゲーミング)にも、今回は、まったく触れてはいません。
たぶん、ゲームは、アップルの得意とするところではないからです。
ほとんどの有名なPCゲームやVRゲームは、例外なくWindowsOS用、もしくはアンドロイドOS用のものばかりです。
メタクエスト2も中身のOSはアンドロイドです。
また、PCゲームやPCソフトウェア、そしてストリーミングビデオのダウンロードサイトとして有名な『Steam』や『SideQuest』はMacOSのプラットフォームとは縁遠いものです。
ためしにネットで「MacOS用ゲーム」と検索してみてください。
iMacとM1MacBook Airを使っているわたしは、いつも、その結果を見るたびに、落胆のため息をもらしてしまいます。
でも「惰性」から、やっぱり明日もMacを使いつづけていくのだとおもいます。
もともとMacOS用にゲームを作ってくれるようなソフトウェア会社がすくないのは、世界におけるiMacやMacBookのシェアを見ればうなずけますから文句は言えませんけれど、それでも、なんとか『Half-Life: Alyx』や『Cyberpunk 2077』くらいはMacOS用に移植してもらいたいと願っています。
ところで、2024年初頭に販売予定の『Apple Vision Pro』の初回オーダーは、当初の販売目標の100万台にはほど遠い15万台だったようです。
その後は、年に5万台ほどの生産台数になるのでは、という情報もあって、全世界にちらばっているオシャレな『Apple Store』では、1店舗に1台という販売方法に落ちつくのでは、とも見られているようです。
はっきり言って、きびしい苦しいスタートを切ったアップルですけれども、めざしたところはとても高い地点だということはたしかだと感じられました。
『Apple Vision Pro』はその名の通り、プロフェッショナル向けのデバイスなのでしょう。
つまりゲーム制作者やアプリの制作者の方たちに使ってもらうための業務向け仕様のデバイスなのだとおもいます。
まさにDevelopersのためのお道具という位置づけです。
Apple Vision Proにとって真のライバルは?
その点を考慮にいれてみますと、アップルがライバルとみなして、追い越そうともくろんでいた相手が浮かんできます。
たぶんフィンランドのヴァルヨ社(Varjo)が世界に誇る『Varjo XR-3』なのではないかとおもいます。
両者とも性能と価格帯はほぼ同じですし、しかもプロフェッショナル向けのハイエンド・マシンです。
ただし『Vario XR-3』のほうは2020年にすでに販売が開始されていますし、しかも「ボルボやアウディ、ボーイングなどの自動車・航空機メーカーへの導入も進んでいます」(MoguraVRのWebページより)ということなので、アップルはすこし出遅れたのかもしれません。
わたしの願いとしては、製造業関連のグローバル・コーポレーションに買ってもらったあとは、とにかく、『Apple Vision Pro』の廉価版(iPhoneSEみたいな)を作って、Appleファンのなかのより多くの方々をMRの世界に呼びこむか、さらにヘッドセットを改良して、当初、みんなが予想していたような、モーターバイク用のゴーグルか、もしくは、せめてBigscreen Beyondくらいの大きさのものに進化させて欲しいのです。
でないと、ほんのごく一部の方たちのタンスの肥やしになりそうな予感はしています。
いちばんの懸念は、本体の売れる数がすくないために、ゲームやアプリなどのソフトウェアを作る方たちまでもが及び腰になって、アップルのエコシステムに参入してこない結果になると、こんどは、ゲームやアプリがすくないために本体そのものが売れない、という悪循環におちいっていくことです。
この逆の流れになればアップルにとってもゲームやアプリ制作者にとっても好都合で、まさに「win-win」なのですが、もしも悪いほうにまわりはじめたら、ほんとうに予想外の大失敗(unexpected flop)にもなりかねません。
つまり、この『Apple Vision Pro』は、いまのところ、わたしたちをユートピア(理想的な未来)へつれていってくれるデバイスにはならないだろうし、また、アップルに批判的な方々を不安がらせるようなディストピア(悪夢的な未来)を生み出すデバイスにもならないような、そんな気がしてなりません。
❤️この記事は『Apple Vision Proの可能性と問題点 | 空間コンピュータと仮想空間』(2023年6月19日公開)のショート・バージョン(簡略版)です。
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